みみ・はな・のどの異物の対応について


 耳鼻咽喉科に関係する異物の中で、消化管の食道異物、呼吸器の気道異物は生命に直接影響することが多いため、特に気道の異物は耳鼻咽喉科専門医、気管食道科専門医がいて、診断と治療が十分できる病院へ出来るだけ早く患者(患児)を送ることが大切です。また、みみ(外耳道)の異物、はな(鼻腔)の異物、のど(咽頭)の異物も大部分は自分入れたり、入れられたりすることが多いので簡単にとれるように思われますが、実際に自分で取ろうとすると、ますます奥に入れてしまったり、周囲を傷つけ、出血したり、痛くなったりしがちで、やはり耳鼻咽喉科専門医の処置を受けないと除去できないことが多いです。

1.耳の異物
 動物性異物(油虫、蠅、コオロギ、蚊、蛾、ダニ、ムカデ)などの場合は生きていることが多く、しかも通常は頭側が奥にあり、動くため苦痛が強いので、まず虫を殺して動かないようにして摘出します。オリーブ油またはアルコールを注入して、あるいは8%キシロカインを噴霧して虫を殺します。耳鼻咽喉科用鑷子、みみ用小釣で摘出します。
 植物性異物(豆類、穀類、種子、マッチ軸、割り箸、竹片)、鉱物性異物(小石、砂、ガラス玉、ベアリング、パチンコ玉)、その他消しゴムなどの場合は、みみ用釣、耳鼻咽喉科用鑷子、異物鉗子、または吸引嘴管を使って除去しますが、球状のものはつかみにくいので、鋭匙状のものでわずかな隙間からすくい出すようにするなど、工夫がいることもあります。小さいものは注射器などで洗い出します。
 しかし、深部に入り込み、痛みも強く、摘出が困難な場合は、全身麻酔が必要な場合もあります。

 ボタン型電池
 ボタン型電池はアルカリ電池とリチウム電池に大別され、直接損傷以外に
 1) 組織に電流(直流低電圧)が流れることによる障害
 2) 腐食により漏出した金属・電解質による障害
を起こし重篤なる副損傷をともなう危険がありますので特に注意を要します。

 2.鼻腔異物
 幼児から小学校低学年に多く、鼻腔に押し込み、とれなくなることが多いです。空気銃の弾、おもちゃの弾、竹片、木片、ボルト、綿棒片、マッチ棒、鉄片、紙片、スポンジ、ガラス片、ビーズ珠、ボタン、植物性異物(豆類、穀類、種子)、パチンコ玉などが異物となりえます。本人が忘れていることも珍しくなく、一側の膿性の鼻汁が続き、悪臭をともなうようになります。摘出の際には、なるべく出血させないように、また患児が動いたためにのどに誤って落として、食道や気道の異物にしてしまわないような注意が必要です。
 通常は無麻酔ないし局所麻酔下で行いますが、時に全身麻酔によって摘出せざるをえないこともあります。

 3.咽頭・食道の異物
 咽頭の異物では魚骨(ウナギ、アジなど)が最も多く、通常は口蓋扁桃か舌扁桃にひっかかることが多く、嚥下痛が主訴となりますが、空嚥下(唾を飲み込む)時に感じる部位のはっきりした痛みが特徴です。診断は視診によります。ピンセットまたは喉頭鉗子で摘出します。
 昔からの言い伝えで、食事中に骨がのどに引っ掛かった場合はごはんを丸のみするのがよいと言われていますが、かえって深部に刺さってしまうことがあるので、やらない方がよいです。自然落下した場合でも、小さな刺し傷でしばらくは痛みが残ることがありますが、数日も同じ痛みが続くのは異物が残っていると考えて、耳鼻咽喉科を受診するのがよいでしょう。
 食道異物症は年齢的に幼少時と壮年以降に多く、学童期には比較的少ないです。したがって、異物の種類としても幼児に多い硬貨(10円玉)、玩具、笛などのほか、成人(特に老人)に多い義歯、薬のPTP、釘、鶏骨などのほか、食事の際の魚骨異物がみられます。異物が引っ掛かりやすいのは食道の第一狭窄部位といわれる食道の入り口です。嚥下痛のほか、感染すると重篤な症状を呈します。診断はX線検査、食道鏡検査によります。
 検査時にすでに胃に落下している場合には、下剤をかけることなく、3、4日後自然に便とともに排出されるのを待ちます。ただし、電卓用のボタン電池の場合は、粘膜穿孔をきたす可能性もあるので、胃ファイバースコープで摘出しておくのがよいです。

 4.気道異物
 気道異物は他の部位の異物と違って、生命に直接関係してくるので、最も重要であり、異物の種類によっては、医師にとっても診断には難渋せざるをえないことが多いです。
 またさらに、異物もさまざまで摘出法、麻酔法も症例ごとに検討が必要になります。呼吸困難が明らかな場合は、気管切開も行うことになります。
 学童期では、乳幼児の場合のようなピーナッツ、玩具類は少ないはずですが、ふざけていてピーナッツを誤嚥したり、口内に何か含んでいて、背中をつかれたりしてビックリした際に誤嚥したりすることもあります。
 気管の異物では大きさにより咳、喘鳴、呼吸困難、チアノーゼ、窒息などが起こり、救急処置を要します。気管支に異物が入ると、急に激しい空咳が起こります。異物が入り込んで落ち着くと、いったん咳は止まりますが、体位を変えると咳が発作的に起こります。誤嚥のはっきりしない場合は、喘息様の症状が続き、肺炎や気管支炎を起こして、小児科や内科から異物の疑いで耳鼻咽喉科専門医に紹介されることもあります。
 診断はX線検査で写りやすい非透過性の異物(金属)の場合は容易ですが、実際はX線に写らない透過性の異物が多く、診断にも苦慮するので、患児または両親から問診をよりくわしく行い、症状を参考にし、胸部の聴打診、必要によってはCTや、さらにはMRIで異物の存在の有無と、存在場所を診断します。
 プラスチックなどはレントゲンには写らないことが多いので、日頃より食物以外のものを口に含まないようにさせ、また静かに食事するように注意しましょう。